大学院紹介About us
メッセージ
私たちが、長い伝統を有する人文学と情報科学(情報管理学とデータサイエンス)の協働によって、「人文情報学(デジタルヒューマニティーズ)」の新たな教育・研究の拠点をスタートしようと考えた理由は、大きく二つあります。
ひとつは、生成AIなどの急速な発展によって、創造的な知識の価値や情報の管理・評価をめぐる社会状況が大きく揺らいでいることです。フェークニュースや偽画像が氾濫し、社会の分断を招いている状況のなかで、我々に必要なことは、情報とデータの意味を歴史と社会の文脈に位置づけ、自己を相対化しつつ批判的に分析するという人文学の視点と方法を、社会で活用しその可能性を高めることにあると思われます。
もうひとつは、人文学の根本的な問いを追究しつつ、情報科学の知見にも通じることで、人文学研究に新たな風をもたらすことができるのではないか、ということです。例えば、これまで研究者の頭の中にあった人間と世界に関する複層的な知やその方法論を、データサイエンスの手法によって解析し、多くの人々が共有できる「パブリックな知」に変換することなども考えられるでしょう。
人文情報学とは、特定の一専門分野というよりも、人文学の各専門分野が有機的に協働し、かつ情報科学と相乗的に連携して、新たな知の方法を紡ぎだしていく試みといえます。この新たな挑戦の一翼を担おうという開拓精神を持つ皆さんを、心からお待ちしています。
九州大学大学院人文情報連係学府長
遠城明雄
この度、統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻も、人文情報連係学府の教育・研究に参画することになりました。
ライブラリーサイエンス専攻では、知や情報の適切な管理とアクセスを保証するために、その基盤となる流通、管理、活用システムの在り方を検討したり、それらに必要な技術開発を行ってきました。ここで大切なのは、情報は単なるデータの羅列ではなく、適切な管理やアクセスを考えるのであれば、情報の性質やそれらが生まれた文脈なども考慮するということです。そのため、我々は、図書館情報学、アーカイブズ学(文書記録管理学)などこれまで伝統的に情報管理を行ってきた専門分野と情報科学などを組み合わせた学際的なアプローチで、これらの問題に取り組んできました。現在の複雑な問題に対応するには、一つの専門分野だけでなく、複数の専門分野における視点や考え方、研究手法等を身につけることも必要であると考えています。
同様に、人文学が対象とする様々な問いに対する新たな知の発見や創造に、ライブラリーサイエンス専攻も貢献できる可能性があると思いました。このような大きな可能性を秘めた人文情報連係学府に参画できることは、我々にとっても挑戦であり、これからの発展に大いに期待しています。その道は険しいかもしれませんが、我々とともに、新たな挑戦をしてみようと思う皆さんと、本学府でご一緒できるのを楽しみにしています。
九州大学統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻教授
石田栄美
人文情報連係学府とは何を目指すのか
情報技術の急速な発展により、私たちの生き方は大きく変化しています。インターネット経由で様々な情報が瞬時に手に入るようになりました。人のうちの猫の平和な寝姿を見る一方で、人々が迫害にあったり暴力にさらされたりしている場面をほぼリアルタイムで目撃することもあります。研究生活も大いに変化しました。論文をデータベースから検索して即座にダウンロードして読むことができたり、遠い国の図書館にある本や博物館に保管されている貴重な歴史資料のスキャン画像を閲覧することができたりするようになりました。しかし、情報技術の発展によって、私たちは本当に幸せになっているのでしょうか? 膨大な情報の波に戸惑い、一度立ち止まってゆっくり考えたい人もいることでしょう。
人文情報連係学府では、立ち止まって問題の根本に遡り、ゆっくり考えてみたいと思います。なぜ意見の合わない人どうしが言い争い、ときには大きな暴力の応酬に発展してしまうのでしょうか? 争っている人たちは、事実を同じ事実だと認識したうえで反対の意見を持っているのでしょうか? それとも同じ事実であると合意できていないのでしょうか?インターネットで流れてくる情報は本当に事実なのでしょうか? そもそも、私たちがある事実を「知る」「知っている」とは、どういうことでしょうか? 画面の向こうにあるテクストやイメージから得られる情報は、どこか現実離れしてふわふわしているように感じます。それらが正しいのか間違っているのか、画面の向こうだと確かめようがありません。正確な情報を確かめるためには、一次資料にあたることが重要です。そして今まで積み重ねられてきた議論を丁寧に精査し、整理することも大切です。つまり、人文学が今までずっと行ってきたことが、今までと同じように、あるいはそれ以上に重要になります。
私たちの生活のなくてはならない一部になっているこの情報技術とは一体何者なのか。どのような仕組みで動き、私たちの社会でどのような役割を果たしているのか、果たすことになるのか、あるいは果たすべきなのか。単に技術を便利に使うためではなく、人文学の観点から批判的に精査しなければなりません。そのためには、自分の専門分野を深めると同時に、お互いの専門分野の問題意識や方法論についても議論し合うことが必要です。人文情報連係学府は、人文学の問題意識をもって情報技術を学び、応用するところです。みなさんと一緒に学び、議論し、私たちの社会が抱える様々な課題について捉え直し、解決の糸口を見出す場になることを期待しています。
人文情報連係学府の概要
人文情報連係学府は、人文学と情報技術の交差点に立ち、両者の融合を通じて新たな知見と技術の開発を目指しています。情報技術の急速な発展に伴い、私たちの生活や研究環境は大きく変わっています。この学府では、情報技術を批判的に精査し、人文学の観点からその意義や役割を再評価することを目指します。
特色
学際的アプローチ
人文学と情報技術の専門家が協力し、異なる視点や方法論を共有し、総合的な理解を深めます。
一次資料の重要性
正確な情報を確かめるために、一次資料に基づく研究を重視します。また、過去の議論を丁寧に精査し、整理することも大切にしています。
情報技術の批判的検討
単に技術を便利に使うだけでなく、その技術が社会に与える影響や意義を批判的に検討します。
学びの場
学生たちは、自分の専門分野を深めると同時に、異なる分野の問題意識や方法論についても学びます。これにより、幅広い視点から現代社会の課題を捉え、解決の糸口を見出すことを目指します。
主な研究テーマ
- 情報技術の社会的影響とその意義
- 人文学における情報技術の応用
- インターネットとデジタルメディアの批判的分析
- デジタルアーカイブと一次資料の活用
- ヘイトスピーチや暴力の可視化とその対策
期待される成果
この学府では、学生と教員が共に学び、議論することを通じて、現代社会が抱える様々な課題に対する理解を深め、新たな解決策を提案することが期待されています。人文情報連係学府は、人文学と情報技術の融合を通じて、より良い社会の実現に貢献することを目指しています。
求める学生像
本学位プログラムでは、人文学や情報科学などに学問的基盤があり、特に人文学的な問題意識を持っ て、 人文学と情報科学を高度な次元で融合して人文情報学を推進するとともに、社会の諸課題にも挑戦し ようとする意欲を持つ学生を求めます。具体的には、以下のような関心や希望を持つ学生の入学を歓迎し ます。
アドミッション・ポリシー
- 人文学が蓄積してきた問題意識や問いに対して、情報科学のアプローチからチャレンジする意欲を持つ者。
- データ駆動型の学問領域や文書・映像情報の管理方法などに対して、人文学的視点から貢献したいと考えている者。
- 各種企業や官公庁、 NPO 等の情報ガバナンスにおいて、人文情報学の知識の活用を考えている者。
ディプロマ・ポリシー
- 人文学のいずれかの専門分野と情報科学に関する知見を身につけ、各自の専門分野において人文情報学の知見を活用して優れた研究を行うことができる者。
- 各種企業や官公庁、 NPO 等において、人文情報学の知見を活用して情報管理やデータ分析を担うと同時に、技術者等専門を異にする人とも建設的な対話を行い、 DX のより効果的な推進に寄与できる者。
- 人文情報学の研究を通して培われた異分野との協力を重視する姿勢によって、他者と積極的に協働しながら、新たな価値発見・創造と社会モデルの構築に寄与できる者。
カリキュラム
修了要件
下記の34 単位以上を修得し、かつ修士論文審査及び最終試験に合格することを修了要件とします。
- 共通基礎科目(計8単位)
- 人文情報学概論(2単位)
- 情報管理学概論(2単位)
- データサイエンス概論(2単位)
- アカデミックプレゼンテーション(2単位)
- 専門科目(計20単位)
- 人文学専門科目、情報管理専門科目、データサイエンス専門科目より選択。各専門科目から少なくとも4単位を修得することが必須です。
- 実践科目(計4単位)
- インターンシップ(2単位)
- データサイエンスプレゼンテーション(2単位)
- 論文指導(計2単位)
到達目標 | 科目・単位 | 修士1年前期 | 修士1年後期 | 修士2年前期 | 修士2年後期 |
人文情報学の研究を進める上で必須となる基礎的知識・理論を修得し、他の専門分野との高次な融合にスムーズに取り組めるようになる。 | 共通基礎科目 (8単位) | 「人文情報学概論」「情報管理学概論」「データサイエンス概論」「アカデミックプレゼンテーション」 | |||
専門科目での学習を通じて、自らの専門分野の研究を深化させると同時に、他の専門分野への関心も深め、研究の融合に主体的に取り組めるようになる。 | 専門科目 (20単位) | 「人文学専門科目」「情報科学(情報管理学)専門科目」「情報科学(データサイエンス)専門科目」 | |||
講義や研究を通じて獲得した人文情報学の知識や視座を、学外の各種機関における実務経験などを通じて、社会実装できるようになる。また異分野、特に理科系の人々に自らの研究を説明し、ディスカッションを行うことができるようになる。 | 実践科目 (4単位) | 「インターンシップ」「データサイエンスプレゼンテーション」 | |||
自らの研究の方向性を定め、異分野融合の研究を行い、レベルの高い修士論文を作成する。 | 論文指導 (2単位) | 論文指導 修士論文 |
指導体制と修士論文
連係学府の教員により指導チームを構成し、主指導教員1名、副指導教員2名以上が指導にあたります。指導チームの教員は学生の希望に沿って構成され、必ず複数の部局から選ばれます。学生は自身の興味に基づき、指導チームと相談しつつ履修計画を策定し、質の高い修士論文の作成につなげていきます。